春日神社
2020年12月訪問
春日神社(かすがじんじゃ)は大阪府富田林市彼方(おちかた)にある神社です。全国に約1000社あるといわれる春日神社の一つで、彼方春日神社、宮山春日神社などとも呼ばれますが、特に地元の人々からは「彼方の宮さん」と親しまれているようです。
春日神社(富田林市) |
春日神社は富田林市南部の石川右岸に広がる丘陵地の森の中に鎮座していますが、400mほど南東には日本三不動の一つとされる滝谷不動尊(瀧谷不動明王寺)があり、その門前町や駅からもそれほど離れてはいません。
歴史と概要
境内に由緒記や説明板は見当たらず彼方春日神社の正確な創建年は不祥ですが、河内国錦部郡彼方村の社寺発祥の地ともいわれ、平安時代初期に弘法大師(空海)によって創建されたという言い伝えもあるそうです。
富田林市の資料にこの言い伝えについて記述があり、それによると、仁和3年(887年)に真然(空海の甥?)が記した縁起に「天長5年(828年)に空海によって創建され、武芸、文学、芸能、医療などを司る神々が祀られた」と記されているようです。実際に鎮座地周辺には空海が開いた道場を起源とする滝谷不動尊や、立ち寄ったとされる嶽山の龍泉寺などのゆかりの地もありますが確かなことはわかりません。
御祭神は、大正時代に発刊された大阪府全志によると、天児屋根命、金山彦命、経津主命、武甕槌命、大日霎貴命(おおひるめのむちのみこと=天照大御神)、大己貴命(おおなむちのみこと=大国主神)となってます。また、境内社には一言主神を祀る伏見堂神社、菅原道真公、事代主命、天穂日命を祀る横山天神社(汐の宮菅原神社)、姜女龍王神を祀る厳島神社、市杵島姫命を祀る海神社、白山権現を祀る白山神社、倉稲魂命を祀る梶原大明神があります(興味深い御祭神については後述)。
一般的に春日神社というと、奈良の春日大社の御祭神であり藤原氏(中臣氏)の氏神である武甕槌命(藤原氏守護神)、経津主命(藤原氏守護神)、天児屋根命(藤原氏祖神)、比売神(天児屋根命の妻)が祀られていることが多いようです。彼方春日神社はこの四柱を祀る河内国一宮、枚岡神社(東大阪市)から分祀されたともいわれているようですが、比売神の名は見られません。また、鉱山や鍛冶の神でもあった金山彦神が祀られているのは南河内では珍しいと思われます。なお、南河内地域で主な春日神社といえば磯長村(現南河内郡太子町)の春日神社などがあります。
境内社にはそれぞれの御祭神が記されていますが、由緒が不明なものもあります。
社務所 |
鎮座地周辺は、かつて河内国錦部郡に属する百済郷の内の村だったようですが、江戸時代には河内国錦部郡彼方村と呼ばれていました。明治5年(1872年)に旧社格制度で村社に列し、廃藩置県を経た明治22年(1889年)には彼方村、板持村、横山村、伏見堂村、嬉(うれし)村と合併して新たな彼方村が誕生。明治29年(1896年)には所属郡が南河内郡となり、当時の春日神社鎮座地住所は大阪府南河内郡彼方村大字彼方字春日出となっています。
明治40年(1907年)12月11日に彼方村大字伏見堂字古城にあった伏見堂神社を、同13日に彼方村大字嬉字鹽の宮(しおのみや)にあった菅原神社(嬉横山天神)を合祀し、翌明治41年(1908年)12月には市新野村(現河内長野市)の千代田神社と同じく神饌幣帛料供進社となっています。彼方村は昭和17年(1942年)に富田林町、新堂村、喜志村、大伴村、川西村、錦郡村と合併し、改めて富田林町が発足した際に廃止されました。
境内は1200坪あるとされ、鳥居、拝殿、本殿とも一直線に並び西北西を向いています。境内社の祠は春日神社本殿とほぼ同じ向きで、北から南に並んで建てられています。
彼方春日神社には神職の方がいらっしゃいますが、外出も多いとか。また、南河内郡河南町にある式内社壹須何神社は当社の兼務社となっているようです。
当社のある旧彼方村の村域には滝谷不動尊をはじめ嬉の腰神神社や金刀比羅神社、西野々古墳群をはじめとした群集墳がある他、北東には彼方丸山古墳もあります。また、1.2kmほど東には佐備神社、1.9kmほど北には錦織神社、2kmほど南南東の龍泉寺境内には咸古神社(咸古佐備神社も合祀)といった式内社もあります。
祭礼
10月の秋祭りは地車(だんじり)祭で、彼方、伏見堂、嬉各地区のだんじりが春日神社に宮入します。彼方のだんじりには春日大社と同じ下がり藤の紋が使われているようです。
参道と境内
彼方とその周辺の鎮守である彼方春日神社は、石川右岸(東岸)の集落から少し山の斜面を上った場所に鎮座していますが、その境内に至る参道は二つあるようです。
西側の参道入口 |
まず、一つ目は表参道と思われる西側の参道で、こちらは旧彼方村集落の中心から真っすぐ東に向かうと入口の社号標が見えて来ます。
西側参道 |
西側の参道は現在コンクリートで舗装され、中央には手すりも設けられています。
鳥居前の石段 |
50mほど坂を上ると石段があり、その先に石造りの鳥居が見えます。
鳥居 |
こちらの鳥居には「元禄二己巳年」と刻まれているようで、元禄2年(1689年)に奉納された古いもののようです。
手水舎 |
手水舎は鳥居の手前右側にあります。
社務所と拝殿への石段 |
鳥居をくぐると正面に拝殿への石段、左手に社務所、右手に多くの境内社のある広場が見えます。なお、南側の参道から来ると右手の広場の奥に出て来ます。
南側参道の入口 |
一方、南側の参道は駅から滝谷不動尊へ向かう道路から入りますが、入口となる旅館の角に立つ「春日神社」の石標を見つけられない場合は、車道の上にある「滝台公園←」の看板を目印にすると分かりやすいです。
旅館の角に立つ「春日神社」の石標 |
旅館の角から南側参道に入ると右手には池があり、左手には富田林市の市街地などが見渡せます。
駐車場(左)と境内(右)への分岐 |
池の畔を越え、滝谷公園の前を通りすぎると大きな「春日神社」の社号標が現れます。社号標の右側を進むと境内の広場を経て社務所・拝殿前へ、左側に入ると駐車場となっています。
奉納絵馬の掲げられた拝殿内部 |
改めて社務所前から拝殿に向かうと、一対の狛犬といくつかの石灯籠の間を抜け石段を上った先に拝殿があります。こちらの拝殿は平成3年(1991年)に改築されたようです。
本殿 |
拝殿の奥には鳥居があり、その先に本殿があります。本殿前の狛犬も江戸時代のもののようです。
こちらの本殿には春日神である天児屋根命、経津主命、武甕槌命と大日霎貴命、大己貴命、金山彦命がまつられていると思われます。
境内南側 |
社務所前、拝殿(本殿)に向かって右手(南側)は木々に覆われた広場になっていますが、拝殿と同じ山側(東)に境内社が並んでいます。
なお、この広場では富田林市の板持地区出身の女優、浪花千栄子をモデルとしたNHK2020年度後期連続テレビ小説(朝ドラ)「おちょやん」のロケも行われています。
●板持地区についてはこちら →【南河内探訪】板持地区(富田林市) ・「おちょやん」のモデルとなった浪花千恵子ゆかりの地
東側に並ぶ境内社 |
境内社を本殿から近い順(北から南)にご紹介します。
伏見堂神社 嬉横山天神 |
まず、最も本殿に近い、つまり北にある境内社が「伏見堂神社 嬉横山天神」です。こちらには彼方村大字伏見堂にあった伏見堂村の氏神で一言主神を祀る伏見堂神社、彼方村大字嬉字鹽の宮(汐の宮)にあった嬉村、横山村の氏神で菅原道真公、事代主命、天穂日命を祀る嬉横山天神(菅原神社)が移されています。
本殿のすぐ隣、他の境内社より高い位置に鎮座しているので石段を上って参拝します。
海社 |
次に鎮座しているのが海神社で、こちらでは市杵島姫命が祀られています。市杵島姫命は宗像三女神の一柱で、水の神や交通安全、技芸の神としても知られ、全国にある厳島神社では主祭神として祀られていることが多いです。
厳島社 |
海社の右隣にあるのが厳島神社で、こちらの御祭神は姜女龍王神となっています。一般的に厳島神社というと前出の市杵島姫命を御祭神としていますが、こちらでは隣の海神社に祀られています。
姜女龍王については詳細不明ですが「龍王」なのでやはり(仏教における)水の神と思われます。似た名前の善女龍王(ぜんにょりゅうおう)は竜王のうちの一尊で、法華経に登場し雨乞いの対象となっています。京都市中京区にある東寺真言宗の寺院、神泉苑には空海が善如龍王(善女龍王)を勧請したという言い伝えがあり、神泉苑や高野山の金剛峯寺で鎮守社に祀られています。
白山社 |
厳島神社の隣が白山権現を祀る白山神社です。白山権現は石川県白山市と岐阜県大野郡白川村にまたがる白山の山岳信仰と修験道が融合した神仏習合の神で、十一面観音菩薩を本地仏としています。修験者泰澄の前に十一面観音の化身である九頭竜王が現れ、自らを伊弉冊尊の化身で白山明神・妙理大菩薩と名乗ったといわれています。
なお、他の境内社の社が流造なのに対し、こちらの白山神社のみ春日造?となっています。
梶原大明神 |
もっとも南側にあるのが朱色の鳥居が並ぶ稲荷社で、倉稲魂命(うかのみたまのみこと)を祀る梶原大明神です。社の前に置かれた古い額の大きさからすると、以前はもう少し大きな鳥居か社殿に掲げられていたのかもしれません。
稲荷社と奥の祠 |
梶原大明神の背後にも狐の並ぶ小さな祠がありますが、こちらの中にはこの地域でよく見られる丸石の賽の神が祀られているようにも見えます。
彼方春日神社は石川を望む丘陵地に鎮座し、鬱蒼とした森に囲まれ神秘的な雰囲気をも感じさせる神社で、当地と藤原氏との関係や空海の伝説など気になることも多々あります。場所に関しては、滝谷不動尊に近く、駅や国道からもそれほど離れていないので参拝しやすい神社といえます。
アクセス
基本的に滝谷不動尊方面に向かいます。
近鉄長野線「滝谷不動」駅からは南に進み、踏切を渡って100mほど東に進むと国道170号(旧道)の「錦織(高橋)」交差点となります。
徒歩の場合も車両の場合も「錦織(高橋)」交差点から東に進み滝谷不動尊方面に進みます。交差点からすぐの石川に架かる高橋を渡り、さらに200mほどすすむと十字路があります(信号のある交差点の次)。表参道へはこの十字路を左折し約100m先の十字路を右折すると70mほど先に社号標があります。駐車場のある南側の参道へは、十字路を直進して滝谷不動尊方面に坂を上り、約170m先の旅館「ふたば別館」手前を左折します(「春日神社」の石標が目印)。右手に池を見ながら200mほど進むと大きな社号標と駐車場がある南側の境内入口となっています。なお、途中にある滝谷公園は桜の名所でもあります。
なお、毎月28日の滝谷不動尊の縁日には「錦織(高橋)」交差点から滝谷不動尊までの区間は車両通行止めとなるので注意が必要です。
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